町に本のある場所を作る
本屋は本を買う場であると同時に、来店される方々が趣味や興味を持ち寄り、多くの本から自身の気づきを見つけ出す場でもある。本と出合い、買うことができる場所としての本屋に、地域の情報ネットワークの核として、本を介在させながら人と人、人とモノ、人と地域、地域と地域をつなぐはたらく機能を付け加え、本の未来に寄り添うこれからの本屋の姿とはどんなものなのだろうか。
業界の隅に身を置く者として、無条件に「本屋」は素晴らしいというつもりはないが、本そして読書を通じて得ることのできる豊かさを伝えていきたいと考えている。豊かに生きる、豊かな心を得る、という美辞麗句が喧伝される現在、真の豊かさとはどんなものだろうかと思うことがある。
「本の存在を拠り所」とする人を増やすことに、どのように本屋が関わりを持つことができるか。そこにこそ、「まちには本屋が必要ですか?」という問いに対する一つの答えがあると感じている。
「読書欲は、読みたい本との出合いの蓄積から生まれる」
私たちの活動のベースとなる言葉である。読書の楽しみは、読者が自分で本を選択するところから始まる。そう、自分で本を選ぶ楽しみと喜びもまた、読書の一部と言えるだろう。読書は、心を開拓し自分の中に創造的で生産的なものを生み出してくれるものであると思っている。その一冊一冊の本とどのようにして出合うのかを考え、さらには読みたいと思える本をどれだけ蓄積することができる場(きっかけ)を創り続けるかが本を読みたいという想いに繋がっていく。私たちは、「街」にも「町」にも当たり前のように本と出合える場所があってほしいと考えている。
「街」は商店やビルが立ち並んでいるにぎやかな道筋、「町」はそれ以外。 「街」と「町」をこのように解釈すると分かりやすい。出版取次が提供するプラットフォームは、大規模物流を前提に成立していた。想定しているのは「街の本屋」なのだろう。
現在、地方を中心に書店のない自治体、いわゆる無書店地域と呼ばれる自治体が420超に達している。無書店地域の多くの自治体には、かつて本屋があった。残念ながら維持していくだけの売上が見込めなくなったことで閉店していったお店がほとんどだろう。本屋は文化施設ではない。あくまでも商売なのである。インターネットが発達し、たいがいのものは、注文すれば数日で手元に届く時代だ。本も同様に。実際に本を購入する場所もリアル書店からEC書店へと流れているのが実情なのである。
読書は、図書館や本屋の棚、または自宅の書棚から一冊の本を抜き取ることから始まる。この行為は、インターネットと違い、あくまでも個人的なもので、誰ともつながっていません。すべてにおいてどこかとつながっている今の社会において、個となることができる読書という行為に必要な要素である本を選択する場としての本がある場所が存在する意味があるのではないだろうか。
本が買える場所が必要なのではなく、大切なのは本と出合える場所である。
まちの大小に関わらず。だからこそ、「街」だけではなく「町」にも本のある場所があってほしいと思っている。